“世界一有名なシェフ”の異名をとるポール・ボキューズ氏の呼びかけにより、1987年以来2年に1度“食の都”リヨンで開かれているフランス料理の国際大会“ボキューズ・ドール国際料理コンクール”。24カ国から集まった一流シェフたちは“世界最高のシェフ”の称号を目指して5時間半を闘い抜く。しかし一流シェフといえども、与えられたテーマ食材を、味は勿論のこと、エレガントかつオリジナリティ溢れる調理方法で制限時間内に料理することは容易なことではない。大観衆の面前、不慣れな厨房、のしかかるプレッシャー、突発的な事故・・・、待ちかまえる試練は数知れない。
本選が行われるフランス・リヨンの会場で、シェフたちを見つめるのは審査員だけではない。各国から詰めかけた大応援団が、彼らの奮闘を手に汗握って見守っているのだ。鮮やかに食材をさばき、調理し、美しく盛り付けていく自国のシェフたちに、国旗を振り歓声をあげて熱狂する観客たち。まさに“美食のオリンピック”とも言うべき大盛り上がりを見せる会場。
芸術的で華やかな料理が誕生する陰では、こんなにもスリリングでエキサイティングなドラマが繰り広げられている!その現場を余すところなく写し撮ったドキュメンタリー映画『ファイティング・シェフ~美食オリンピックへの道』。手に汗握らずにはいられない、美味しい闘いが今、始まる!
カメラが追いかけたのは、スペイン代表のへスース・アルマグロ。美食の国でありながら、フランス料理ではまだ世界的評価がそれほど高くないスペインが、初の入賞を目指して送り出す、マドリードの有名レストラン“ペドロ・ラルンベ”の若手シェフだ。彼がスペイン初の“ボキューズ・ドール”優勝者となれば、この世界におけるスペインの地位が向上すると同時に、へスースの人生も大きく変わることは間違いない。世界最高のシェフとして認められ、地位と名誉・富を手に入れ、ミシュランの星つきレストランを自分の手でオープンさせることができるのだ。
本選出場が決まって以来、へスースはアシスタントのフェリクスと共に、入念に準備を重ねてきた。膨大な食材と時間を費やし、同僚シェフや諮問委員会のメンバーたちから時にはアドバイスをもらい、また時には酷評され試行錯誤を繰り返してきた準備期間。それはまるでオリンピックに挑むアスリートのような時間だった。
07年大会の課題食材はフランス・ブレス産の鶏肉、ノルウェー産のオヒョウ、ノルウェー産のタラバガニ。ライバルは、過去5回も優勝者を送り出しているフランス代表のファブリス・デヴァン、デンマーク代表のラスムス・コホド、スイス代表のフランク・ジョヴァンニ、日本代表の長谷川幸太郎ら、各国を代表する凄腕シェフたち。この3つの食材を使って、へスースは審査員たちを唸らせる料理を作ることができるのか—!?世界で最も注目される料理の祭典に挑むへスースの姿に、あなたもいつしか熱い声援を送っていることだろう。
ミシュランガイドに代表される、レストランの格付け。古くは「料理の鉄人」(93~99/CX)、最近でも「愛のエプロン」(99~08/EX)など、多数作られてきたコンペティション形式の料理番組。更にはB−1グランプリによる町おこし。—料理の格付けやコンペティションは人を惹きつけてやまない。人間はなぜ競争を好むのか?料理にも競争は必要なのか?“食”への貪欲さはとどまるところを知らないのか—?
重圧や緊張と闘う日々を経て、目にも鮮やかな料理を披露するへスースの陰には、息子を応援する母の姿が常にある。母との会話や母の手料理は、緊張が続くへスースをホッとさせる束の間のひと時であり、彼の料理人としての原点なのかもしれない。映画のラストシーン、闘いを終え、実家で母の料理を手伝う彼の姿を目にしたとき、きっとあなたも思うだろう—料理の1等賞ってなんだろう?と—。
ミシュランガイドが好調な売れ行きを見せ、テレビではグルメ番組が人気コーナーとして支持され、更には料理をモチーフとしたテレビドラマやコミックが多数送り出されるなどなど・・・“食”への視線が熱い日本。“食育”や“ガストロノミー”といった、「食べる」だけにとどまらない「食文化」にも注目が集まっている昨今、単なる料理ドキュメンタリーを超えた食のヒューマン・ドキュメンタリーの傑作『ファイティング・シェフ~美食オリンピックへの道』は期待と好奇心で迎えられるだろう。
本作は、本国・スペインをはじめヨーロッパ各国でスマッシュヒットとなり、ゴヤ賞最優秀ドキュメンタリー賞にノミネートされた。更には、08年ベルリン映画祭、08年トライベッカ映画祭、08年モントリオール映画祭に正式出品され、好評を博している。
